南阿蘇鉄道高森駅・交流施設



一般に駅舎は町を向くようつくられるが、高森駅は反対の線路側を正面として、芝生広場を持つ「とにかく広いプラットホーム」とともに乗客を迎えるようにつくられている。ゆるやかな地形のためにプラットフォームと周辺市街地が地続きであるという地形的条件、車内改札のため改札口がなく、誰もがプラットフォームに入って来られるという南阿蘇鉄道の運行方法、そしてカルデラに沈む夕日を西に眺めることができるという方角の特徴を際立たせようというのが、建物が線路側を向いている理由である。ほかに類を見ない配置が可能となったのは、今回のプロポーザルが建物全体の配置計画だけではなく、ロータリーやバス乗降場などの交通計画を含んだ「グランドデザイン」を募るものであったことが決定的な要因となっている。
建築は駅舎と交流施設の2つに分かれ、それらを庇、回廊、塔が繋いでいる。天井は三次元相持ち構造の木組みの「修羅組み」で支え、プラットフォーム部では斜めに広げ、回廊では厚みを持たせ、塔では積み重なるように木組みの形を細かく変えた。木組みの周囲にはUVカットフィルムを挟んだガラスの垂れ壁を設け、退色対策、雨仕舞い、そして夕日を照り返す演出を試みている。
庇と回廊については、交通手段の乗り換えをスムーズに行えるようにする一方、夕日や風景を眺めるベンチ、阿蘇の野花による植栽を要所要所に配置した。交通を待つ時間を可能な限り豊かにしたいと考えたからである。
駅舎と交流施設は、直方体の四隅に長方形を貫入させ、その四隅もガラス窓やベンチなどで複雑化させるフラクタルな構成となっている。隅部のガラス窓は、芝生広場、阿蘇五岳、鉄道の風景を意識して高さや位置を調整した。手摺子や扉の引き手にミニチュア鉄道のレールを使ったり、夕日鑑賞を促すために時計の文字盤を変えたり、落日後も町に滞在してもらえるよう夜景の演出を行うなど、駅の魅力を高める作り込みも細かく行っている。
地方公共交通の維持が日本全体のテーマとなるなか、鉄道の魅力を利用者に伝える駅の役割は大きい。高森駅では、観光客が快適に利用できるようするだけではなく、中高生が放課後の時間を過ごせたり、鉄道を見ながらピクニックができたり、町の人々がふと夕日を見に立ち寄ることができるような、生活の一部としての駅づくりを目指した。

敷地

Tokyo, Japan

計画施工期間

2018.09-2024.03

延床面積

783.1m2

基本実施設計

太田浩史
石田祐也
石島健史

施工会社

株式会社竹内工務店

構造設計

株式会社MID研究所

設備設計

株式会社明野設備研究所

ランドスケープ設計

Lysning

照明設計

ぼんぼり光環境計画株式会社

サイン設計

有限会社ペーパーバック+DAY

デジタルサイネージ設計

株式会社フォルテッシモ+design301