昭島の集合住宅のリノベーション



 目一杯の隣棟間隔が取られた旧公団住宅9階の住戸改修工事。南面の大開口から差す陽光が空間に満ちあふれるのを見て、この光に美しく照り映える壁を、改修の主役にしたいと考えた。
 ウォールウォッシャーなど固定された光源とは違い、自然光は入射角と方位角を刻々と変えるから、それぞれの変化を拾うようなパターン配置が重要となる。具体的に言えば、東京の夏の入射角78度と冬の32度で影のでき方が違うようにしたいから、45度の稜線を持つパターンを使いたい。方位角については曲面壁が効果的だから、綺麗に曲げられる素材がほしい。その2つを満たす素材は何かと考え、サカイリブの「ジグザグ」が最適だと結論した。
 プランは可能な限り既存壁を取り壊し、曲面壁のまわりに生活が展開するように考えた。一番留意したのは、一日の大半を読書に没頭して過ごすという施主が、ふと眼を挙げたときに日時計のように影のパターンが変わっていることに気付くような、曲面壁のさりげない存在感である。これについては、壁が強くなりすぎないよう水平窓を開け、奥の壁を黄色く塗って視点の焦点をずらしたのと、パターンが繰り返している印象を持たれないよう、3種類の異なる幅の「ジグザグ」を組み合わせて6種類のパターンをつくり、大きな「ゆらぎ」が生まれるような工夫を行った。時間によって上下の影の濃さが同じになり、平らな面のように錯覚されるのは、壁が出来あがってからの発見だった。
 朝夕、季節、天候によって表情を変えるサカイリブの曲面壁は、生きている抽象画のようでもあり、ふわっとした拡散光を振りまくインドアの雲のようでもある。陽光のもとでのサカイリブは、まだまだ多くの発見がありそうなテーマだと感じている。

第6回サカイリブを使ったデザインコンペ
審査員特別賞(橋本夕紀夫賞)
下記審査員評リンク
https://sakairib.com/app/webroot/fileupload/files/6th_designcompe_catalog_A4-.pdf

敷地

Tokyo,Japan

計画施工期間

2018.09-2019.02

延べ床面積

87.7m2

基本実施設計

Hiroshi OTA
Takeshi ISHIJIMA

施工会社

マパルスカンパニーリミテッド有限会社

スタイリング

大田環

ガーデニングデザイン

高間蘭子+高間恵治

整理・収納デザイン

大矢光子(コンサルタント)+渡邊澄枝(アートコーポレーション株式会社ライフサポート課東京エプロン)

PHOTO

太田拓実